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ギド・マック・ドゥ
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●次回小説 部分パート先行公開 銀星戦士シルバー・ブリッツ 水着回(前編)

 暑い暑い、夏の午後だった。  真っ青な空にそびえたつ入道雲の下で。  ――チリンチリンチリリ~ン♪  ミンミンゼミの大合唱もかき消す、アイス屋のベルの音が鳴り響いた。 「おめでとうございますわぁ~~!」  露店のアイス売りに言われて、アイスを舐めていた女の子は自分の持っていた棒を見る。  そこには、燦然と輝く『あたり』の文字があった。 「おぉ……おぉ~~~!!」  女の子こと、三葉詩織ちゃんが歓声をあげる。  こんな、どこにでもあるような夏の風景が、まさか。  今度の事件の前触れになるなんて、俺、ヒーローのシルバー・ブリッツはこの時知る由もなかった。 ※ 「あ゛~~づ~~い゛~~……っ」  昼下がり、洋食店『ビストロみつば』午後の休憩時間。  客のいないうだるような暑さの店内で、エアコンの前に陣取りボーイッシュな少女がうなり声をあげている。  だけなら、よかったのだが。  ――ぱたぱたっ♡ もわもわっ♡   もわもわと漂う、甘ったるい空気。  少女は誰の目もはばかることなく、Tシャツを思いっきり引っ張り胸元を大きく広げ、しきりに扇いでいた。  そしてあどけない顔だちには不釣り合いなぐらいの爆乳めがけて、冷気をガンガンあてていた。  ――ゆさゆさ♡ たぷたぷたぷぅっ♡  ただでさえTシャツから飛び出してきそうな重量級のバストが、上下に激しく波打っている。  じっとりと蒸れた匂いがエアコンに乗って店内に広がっていき、甘ったるくこそばゆい気分にさせる。 「あーもー……ハレンチデスコぉ!! 休憩時間だからって何やってんのよアンタはぁ!?」  怒鳴られて当然な少女の名前は、デスコレート。  人間の姿に身をやつし、この洋食店『ビストロみつば』の居候をしている。  が、元は悪の秘密組織『フーダーズ』の大幹部で、【甘味】を司るパティシエ怪人。  得意技は――……えっちな攻撃で相手を惑わす、魅了技だ。 「だ~~って、おっぱいの谷間ムレムレなんだも~~ん。は~~……エアコンの風、キモチイイ~~♡」 「そんなギチギチしたTシャツ着てたら当たり前……ッ! てぃ、Tシャツあおぐのやめなさいっての!!」  そして果敢にもデスコレートに怒鳴りかかっているのは三葉沙織ちゃん。  この『ビストロみつば』を切り盛りする三葉三姉妹の次女で、ちょっと気が強い女子高生。  今日も今日とて無意識にハレンチなデスコへのツッコミが冴え渡る。 「え~~、いーじゃんいーじゃん。ほら、沙織ちゃんもこっち来てボクとパタパタしようぜ~♡」 「や、やめ!! し、しかもアンタ、ノーブラじゃないのぉ!? いいかげんにしなさ……か、隠してぇ!!」  そして背後のあられもなさすぎる光景から目を背け必死にテレビを見続けている俺は、銀誠二。  『フーダーズ』と戦うヒーロー、銀星戦士シルバー・ブリッツで、今は正体を隠しデスコとこの店に厄介になっている。 「俺は何も見えない聞こえない。わー、近所のウォーターパークがリニューアルですよ香織さん」 「そ、そうね……。誠二くん日に日にスルー能力が上がってくわね……?」  困り顔で頷くのは三葉姉妹長女の香織さん。このお店を女だてらに支える、若き敏腕経営者だ。  今は俺と一緒に、妹と住み込みバイトのゴタゴタから目をそらしているけども。 『みどりウォーターパークが新しくなりました! 広~いドームの屋内プールと、都内最大スライダーがお出迎え! 夏休みには家族みんなで~~…』  テレビでは一切の面白みもない宣伝文句と、何十年も変わっていないBGMのCMが流れている。  みどりウォーターパーク、この辺りでは最大規模のレジャープール施設だ。 「ここ……まだ沙織も詩織も小さいころに、父や母と行ったプールだわ。ずいぶん綺麗になったのね」  香織さんが、ぽつりと呟く。  三葉家のご両親は日本の外食文化を広める為に世界中を飛び回っていて、家にはほとんど帰ってこない。  長女の香織さんも一時は海外行きを誘われたが、妹たちと店の為に日本に残った経緯があった。 「え~~、いいなぁ。ボクもプール行きた~い」 「う~~……怒鳴ったのと甘い匂いでクラクラ、してきた……ッ♡ ってなに、プ、プール? プール行くの?」  だけどそんな寂しさ一切見せないのが、この長女さんの良いところだ。  あっけらかんとしているというか、自分を持った人なんだと思う。 「ううん、久しぶりに行ってみたいかなって話よ。でも、お店もあるし……」  ――カラン カラン  店の玄関ベルが鳴った。  立っていたのは、この暑さにも関わらず外に遊びに出ていた、三女の詩織ちゃんだった。 「たっだいまー! おねーちゃんたち、見て見てー! アイス当たったんだよー!!」  キラキラした目で天に掲げたのは、一本の小さなアイスの棒。  そこには確かに『あたり』の焼き印がしてあった。 「おろ? アイスもう一本もらったの? よかったね~」 「ちがうのデスコおねえちゃん! もっとすごいのが当たったの!! ほら、せーじくんもコレ、見てコレ!!」  そう言って俺に駆け寄ってきた詩織ちゃんの手には、アイスの棒の他に小さな紙が握られていた。  渡された俺は、しげしげとその文面を眺めてみる。 「なになに……? 『大当たり! みどりウォーターパーク・団体様……無料券』!?」  読み上げながら驚きのあまり声がどんどん大きくなってしまった。  まさか、こんなタイムリーなことってあるのだろうか。 「うっそ無料!?」 「ほんとにプール!?」  一気に店内がざわつく。デスコと沙織ちゃんの目が光る。 「ねーねー行こうよおねーちゃん! しおり、みんなでプールいきたーい! いきたーい!」  無邪気な詩織ちゃんの声が、拍車をかける。  俺は顔を上げると、目をぱちくりさせている香織さんに声をかけた。 「いいんじゃないですか、香織さん。この間のイベントで店にも余裕があるし」  香織さんは息を一つ吐くと、困ったようにでもとても嬉しそうに微笑んだ。 「……もう、しょうがないわね♪」  それで決まりだった。 ※ 「きゃっほぉ~~~~~♡」  ――ざっぱぁ~~ん!!  さんさんとした夏の太陽に、水しぶきが跳ね返る。  ガラス張りで空調のよく効いたドーム内のプールに、デスコレートの黄色い声が弾けた。 「さいっこぉ~~♡ つめたくて、きんもちいぃ~~♡ 人間クンたち、本当にイイもの作ってくれちゃうんだから!」  ――たぷん♡ たぷんっ♡ たぷぅんっ♡  そうして水しぶきを立ててはしゃぐ度に、真っ白なビキニが弾け飛びそうな勢いで、爆乳が揺れる、揺れる。  だけどとうのデスコはそんなの意に介さず、天真爛漫に笑いながら俺へ手を振った。 「あ、せーじクーン! こっちこっち~!」  ――たぷるるるんっ♡ ぷるるるるんっ♡ 「あ、はははは、はぁ……」  俺はプールサイドから力なく手を振り返した。  そうだった、こうなるんだった。忘れてた。 (おぉ……♡) (すっご……でっか……♡) (なんだよあのコ、グラドル? やっば……)(うわ……こぼれそ……♡)  周囲の客たちの視線と小声がいやでも目に耳に入ってくる。  俺は誰にも見られないよう前かがみになりつつ、そっとプールサイドに腰掛けた。  ダメだ。とてもじゃないが、今あいつの近くで平静を装える自信がない。 「ふっふっふ~! チケット当てたしおりをホメてくれていーんだよ? デスコおねーちゃん!」  可愛らしいフリル付の水着を水面に漂わせて、ドヤ顔の詩織ちゃんが浮き輪を器用に扱いながらデスコの傍へ泳いできた。  「ホメちゃうホメちゃう! よ~し、じゃあ詩織ちゃんにはご褒美に、ボクのカラダへオイルを塗る権利をあげようっ♡」 「ふひぇっ!? デ、デスコおねえちゃんのおっぱ……カ、カラダに!? い、いいの本当にいいのっ!? しおり、前から一回さわってみたかったんだけどっ!?」  詩織ちゃん? どういう反応なんだ、詩織ちゃん。そういえばあの子、デスコの弾む胸を見てたまに「おぉ~…っ」とか感嘆の声をあげていた気がするな?  すっかりおませになっていたらしい少女の、生唾のみ込む音がここまで聞こえてくる。ついでに、周りの男性客たちの心の声までも。 (マジか……マジか……) (いいなぁ……コドモはいいなぁ……) (あ、あの胸にオイル、ぬりぬり……ゴクリ……)  俺も思わず、その光景を想像してしまった。  デスコレートの、成人男性の両手でも掴みきれない大きさのバストに、オイルを、オイルを。  ――ぬるぬるぅ♡ ぷるるるんっ♡♡♡  ヤバイ。一瞬気が遠くなりかけた。熱中症だそのせいだそういう事にしよう。 「せーじクンも塗ってくれる~?」 「な゛ぁ!? だ、だ、だ、だれがぁっ!!」  悪戯っぽくニヤニヤしながら言ってきたデスコに、俺は腕を振り上げた。  いかん。顔が真っ赤なのが、そして俺の水着の中身がどうなってるのか、バレてなきゃいいが。 「デスコの奴、本当にどこでも平常運転なんだから……! 恥じらいってもんがないのかしらアイツ!!」  少し離れたパラソルの下では、沙織ちゃんがぷりぷり腹を立てている。  流線型の体躯に、ワンピーススタイルの青白い水着がぴったりと張り付いて美しい。 「ふふふ、いいじゃない。今日はお店も休業、お仕事の事も考えない。はしゃぎたくもなるわよ。はぁ、いい日差し……」  プールチェアに寝そべる香織さんは、シックな黒のパレオ姿だ。  普段エプロンや仕事着で隠されている、思いのほか豊かな胸元が吐息と共に上下する。  ――ぷるぅんっ むちぃっ♡ 「……どうしたの?」 「なっ!? なんでもない! い、意外とお姉ちゃんもあるのよね。アタシだって妹なんだからもうすこし、ブツブツ……」 「ふやぁぁぁぁぁっ♡ にゃにこれぇぇぇぇっ♡♡♡」  思春期特有の煩悶を、三女さんの素っ頓狂な声がさえぎった。 「ふふ……っ♡ あんっ♡ どーしてオイル塗ってる詩織ちゃんの方が気持ち良さそうなのさ? クスクス……♡」 「だ……だってぇ……ふわぁぁ……お、おててが、きもちよすぎてとろけちゃうぅ……♡」  いつの間にか香織さんたち近くのパラソルの下に、デスコと詩織ちゃんがやって来ていた。  詩織ちゃんの小さな掌が、ビキニを外しチェアに寝そべったデスコの背中へ、ぬっぷりとサンオイルを塗っている。  とろける柔肌をなぜるたび、小さな体が電流を浴びたように震えある。  更にうつぶせになったデスコの下で、弾力たっぷりすぎる二つのバストがプールチェアに圧し潰されて。  ――ぐにゅぅぅぅん♡ むにゅぅぅぅぅん♡ (ご……ごくり……♡) (ヤバ……♡ おれ、ちょっと、トイレぇ……♡) (お、おれもぉ……♡)  いやらしいにも、ほどがある。  周囲の男性客たちが、ふらふらしている。  当たり前だ、俺だって、俺だってもう。 「ん? な~に~誠二クン♡ キミまででろでろに溶けちゃった顔してるけど、ど~したの~~?」 「お……俺……俺ぇ……っ!!」  走った。  とにかく俺は、この状況に背を向けて、走り出した。 「ちょっと誠二!? どこ行くのよ!?」 「どっかで頭冷やしてくるぅ!!」  プールのタイルの暑さも気にならない。  俺は全力で、まだ理性が生きている内にどこかで平常心を取り戻すべく走り続けた。 ※  炎天下を走ったせいか、それともあんな光景見たせいか身も心も暑くて暑くてたまらなかった。  空調の効いたドームプールから出た俺は、とにかく頭を冷やすものがないかと辺りを探していた。 『ま~ったく! 誠二よ、君は本当にあーゆーのに慣れないな!』  「ア、アルさん!? ……っと」  そこへ突然、俺の心の中からあきれ返った声が聞こえてきた。  つい普通に声で答えてしまい、慌てて口をふさぐ。 『あれだけバイタルが急変動したら目覚めるのも当たり前だ! 今日は休みだって聞いたから、ゆっくり寝ていたのに……ふあぁ~あ』    人の心の中で大あくびをあげたのは、フード・ワールドの守護者。ガーディアン・アルジェントことアルさんだった。  俺の精神の奥底で普段は眠って力を蓄えていて、彼のチカラで俺はヒーローのシルバー・ブリッツに変身しているんだ。  周りの客に変な目で見られないよう、俺は心の中でアルさんと会話する。 (そうは言っても……あんな、こう、え、えっちなのを見せられちゃうとさ……。デスコの奴だって、調子に乗って周りにちょっかい出してくるし!)  そう、俺は色仕掛けとか女の色香とか、そういうのに弱い。めっぽう弱い。  コック見習いとしてがむしゃらにやってきて、全然そういった経験がないせいだ。  デスコレートが来て少しは慣れるかとも思ったが、なんか毎日のようにもてあそばれて逆に悪化してる気がする。 『……まぁ気持ちも分かるが、大目に見てやろう。きみやあの三姉妹さんとも打ち解けて、デスコレートも嬉しいのさ』 (それは……分かるけど……)  冷静にアルさんからそう言われて、俺は頭をかいてしまった。 『人間の友達なんか、フーディリアンのあの娘には初めてだろうし……うん?』  ――チリンチリ~ン♪  涼やかなベルの音がした。  眼を向けると、麦わら帽子を目深にかぶったアイス屋が、ソフトクリームのカートを引いていた。 「は~い! ご来場のお客様に特別サービスですわ~! ソフトクリームを無料プレゼント中ですわよ~!」 『ほら、あれでも食べてちょっと落ち着こう。私はもう少し……休む……zzz………』  アルさんが意識の奥へ引っ込んでも、身体の火照りはおさまらなかった。  そうだな、確かに体の中から冷やすのもいいかもしれない。 「……ひとつ、下さい」 「はいどうぞ。ごゆっくりですわ~♪」  妙なしゃべり方の店員だな? まぁ、いいか。  気が付けば周りも皆、老若男女問わずソフトクリームを食べている。まあ、無料だもんな。 (人間の友達は初めて、かぁ。そりゃそうだよな、デスコはフーディリアンで怪人なんだから。ずっとフード・ワールドやフーダーズにいたんだし……)  ぐるぐる渦を巻くソフトクリームを前にして、俺も思考をぐるぐる巡らせていた。  アタマの中で、アルさんの言っていたことがずっと渦を巻き続けていた。 (考えてみればあいつ、たった一人で組織を抜けて俺の所に来てくれたんだよな……)  でも、いつもあんなにニコニコしていて。  三葉の三姉妹さんたちとおんなじだ。弱音なんか、おくびにも出さないで。 (実は寂しかったり、するのかな……)  グルグル、グルグル、考えながら。俺は溶け始めてきたソフトクリームを一舐めした。  ――ぺろっ  一瞬、思考が真っ白になった。  ――ぺろっ  ――ぺろっ ぺろぺろっ (……なんだこれ、このソフトクリーム)  さっきまでの悩みも白く塗り潰されるような、衝撃的な甘さ。  脳に突き刺さる冷たさもさることながら、濃厚なバニラの風味ときめ細かいクリームが何とも言えない。 (めちゃくちゃ、美味しいな……!)  間違いなく、今まで食べた中で一番のソフトクリームだった。 「うん、うっま……。なんかもう、無限に食べられそうだな……。そうだ、無料なんだよな? デスコや皆にも……あれ?」  なんだろう、おかしいな。  この濃厚な甘さのせいだろうか、頭がなんだか、本当にグルグルと。 (なんか……アタマが、回る……? )  気が付けば、俺と同じようにソフトクリームを食べていた人たちまで。 「はにゃぁ……この、ソフトクリーム……」 「冷たくてグルグル、おい……しぃ……」 「グルグル、グルグルゥ……♡」  次々と足元がおぼつかなくなっていく。何人かは既にプール際に倒れている。  いったい、これは、何が起きているのか。 (ま、まわりの人たちも……!? ま、まさか、このソフトクリーム……! う、あ、立ってられ……な……)  かんがえが、まとまらない。  たいようが、ギラギラして、グルグルして。 (フーダーズの……ワナ……?)   おれまで、たおれる。  ――どさっ 「フフッ♡ ざっとこんなもんですわ、オーッホッホッホ! さ、お前たち!」 「フー! フー! フー!」  けたたましい笑い声と、聞き覚えのある掛け声を聞きながら、俺の意識はまどろみに落ちていった。 ※  暗闇の、中。  俺は目を開ける。 「ここ……は……?」  確か、妙な店員からソフトクリームを受け取って、食べてからそれで……?  それで、どうしたんだったか。 「やっほ~、シルバーく~~ん♡」  向こうでデスコレートが手を振っている。  あいつ、こんな人混みでヒーローの名前を呼ぶなんて。  でもまぁ、いいか。今日は休みなんだし。 「よ、ようデスコ。皆はどこ行ったんだ?」 「うん? そこにいるじゃない! ね、それよりさ、スイカ割りやろ~よ~! 用意したからさ!」  スイカ割り?  海ならともかく、こんなプールで? 「いや、お前、他のお客さんもいるし……」 「だいじょーぶだって! チケットもあるんだしっ! ほら、速く速く、目隠しして~♡」  いつの間にか、俺の目には目隠しがついている。何も見えない。  そして、どうやら手には棒きれが握られているようだ。 「ほら! 右だよ右!」 「アンタはまたテキトーなこと言って! 誠二! 左よ左!」 「惜しいわ誠二くん、ちょっと通り過ぎたわよ」 「せいじおにーちゃん、がんばれー♪」  デスコだけじゃない、三葉さん家の三姉妹の声も、俺をスイカへと誘導する。  なんだっけ、なんだかよく分からない。  とにかくスイカ、スイカを。 「右!右だってば~♡ ボクの宿敵がそんなんじゃ、みっともないぞ~♡」 「左って言ってるでしょ!」 「はい、そこでまっすぐですの♡」「フー! フー!」  何か今、変な声が混ざっていたような。  スイカは、どこに。  うわっ。  ――ずるっ  つまずいた。  つんのめった俺は、何かに、しがみついた。  ――むにゅぅぅぅぅぅん♡♡♡  この、感触は。  目隠しが、外れた。 「きゃん♡ シルバーくんったらやーらしー♡」  デスコレートの、おっぱいを。  俺、こんなところで、掴んで。 「うわっ!? ごめっ!! ごめ――……っ」 ※  そこで目が覚めた。  ――ぐにゅぅぅぅぅぅ…… 「……は?」  俺が握りしめて、いたのは。 「フ、フー!フ――!!フ――――ッ!!」  小麦粉生地で出来たフーダーズの戦斗員、フード兵の頭だった。  「わ――ッ!?なんだこれ!?」  手を離した。そして気が付いた。  今、俺の体は何人ものフード兵に持ち上げられていた。 「フー!」「フー!」「フー!」 「は……はぁぁぁ!? フ、フード兵が、なんでっ!?」  さっきまでのスイカ割りは、あれは夢だったのか。  現実は、このありさま。まるでお神輿のように、フード兵たちが俺を運んでいく。  それだけじゃない。眠らされたさっきの客たちも、大勢のフード兵によって抱え上げられどこかへ運ばれているようだ。  いったい何が、起きているんだ。 (とにかく一度変身して、こいつらをやっつけて……!) 「フ―――ッ!?」  ――ずででっ  ようとした矢先、俺から少し離れたところにいたフード兵たちの一人が転んだ。  運んでいた人間は他のフード兵がかばったから地面へ落ちずに済んだが、同じフード兵でも不器用な奴がいるもんだ。 「フー!」「フー!」「フー!」 「フー……っ」  転んだ仲間を他のフード兵が心配げに見ている。  ……いや、俺まで見守ってる場合じゃないだろう。  さっさと、変身を。 「はぁ~~~~~~? なに転んでるワケぇ~~?」  場違いな、子供の声がした。  女の子の、声だった。  俺は再度動きを止めて、笑い声の方角を見た。  「ざこざこフード兵は、こんなおつかいもまともにできないの? ポップちゃん、呆れちゃうんだけどぉ~~~~?」  本当に、女の子がいた。  フード兵たちの真ん中で、腕組みしてふんぞり返っていた。 (なんだ……あ、あんな女の子が、怪人なのか!?)  年齢は、10歳前後にしか見えない。ツリ目がちでちょっと生意気そうな女の子だ。ランドセルまで背負っている。  黒髪はたくさんの色のメッシュが施され、まるでマーブルチョコレート。そんな髪を大きなキャンディ型の髪留めでツインテールにまとめている。  ピンクでドクロ柄をしたキャミソールにフレアスカート、縞々のニーソックスも目をひいた。  一見して、詩織ちゃんより少し大きいくらいの、カワイイ人間の女の子だ。 「フ……フー! フー! フー!」  もし片手であの子が、ハート型した数mはある棒付きキャンディ―を持ってなかったら、怪人って思わないところだ。  転んだフード兵が、地べたから女の子にぺこぺこ頭を下げている。  どうやら何か、言い訳をしているように見えるのだが。 「はぁぁ? そのうえ口ごたえとか、ほんと……ナ・マ・イ・キィ~~~~!」  そのフード兵の顔面目掛け、女の子が。 「フ……フッ!?」  ――ずむんっ!!  ――ぐりっ ぐりっ ぐりぃぃぃっ!!  足を思いっきり押し付けて、ぐりぐりと踏みにじった。 「フ……! フゥゥゥ!! フゥゥゥゥ♥♥♥」 「キャハハハハ☆ おまけにポップみたいな小さい女の子に踏まれて、そんな声出しちゃうんだ♡ ほ~んと大参謀の用意するフード兵はサイッテー……ね!」  ――げしぃっ!!  フード兵の顔面を、ピンク色のドクロ柄がプリントされたスニーカーが思いっきり蹴りつける。  顔面がへっこんで地面に転がったフード兵は。 「フゥ……ッ♥ フゥゥゥ……ッ♥♥♥」  悦んで、いた。  えっと、これはあの女の子の能力なのか。それともあのフード兵が特殊なのか。 「ほら、さっさと立ちなさい? 人間たちをドームにはこぶ! ポップちゃんのめーれーよ♡ きゃはははは☆」 「フ――――ッ♥」  泥に汚れたフード兵は、嬉しそうに返事しながら他のフード兵に混じり、また人間を運び始めた。  いけない、つい変身するタイミングを外してしまった。  女の子はハート型の巨大キャンディを軽々と振り回し、フード兵たちに行き先を指示する。  その先には、さっきまで俺がいた巨大なドームプールがあった。  だが。 (ドームって……なんだアレ!? ド、ドームがクッキーの殻に覆われて……!?)  ドームプールの姿は、様変わりしていた。  ガラス張りだった巨大なドームの表面は、こんがりと焼けたクッキーや堅牢なキャンディの装甲で覆い尽くされていた。  あちこちに凝った装飾まで施されて、かなり派手な姿になっている。  どうやら俺たちは、あのお菓子のドームへと運ばれていくようだった。 (あそこへ人質を集めてるのか!? マズい、あの中にはデスコや、皆がまだ……うん?)  ドームの上に、誰か、いる。  クッキーの外殻からせり出した、ロココ調のバルコニー。  そこから白銀の長髪と深紅の目をした何者かが、俺たちを見下ろしていた。 「やぁ、流れるプールの方に行ってたコたちかな? その人間さんたちで最後だね、フフフ……」  優雅に微笑をたたえた、麗人という言葉がふさわしいきらびやかな女性だった。  その身には、重厚な茶色い甲冑を着込んでいる。装飾や質感から察するに、あの甲冑もクッキーだ。  じゃあ、あいつがこのクッキーのドームを作ったのか? ってことは、あいつも。 (また、もう一人の怪人なのか!? 一体何人いるんだ……?)  考えている間に、ドームにたった一つの扉へ、人間たちが次々と運び込まれていく。  こうしてプールの客全員を、人質にするつもりか。  クソ、そうはさせるか。 「様子見は終わりだ……! シルバー……ウェアリング!」  全身に力を込める。  俺の中に眠る、ガーディアン・アルジェントのチカラを呼び覚ます。  ――ぴかぁぁぁぁぁ……! 「フ?」「フー……?」 「おや、あれは……?」  俺を抱え上げていたフード兵たちは、何が起きているか分かっていない。  じゃあ遠慮なく、変身しながら、武器も具現化させてもらって。  ――きゅぴぃぃぃぃぃん!!  先制攻撃で蹴散らさせてもらう! 「変身完了、シルバー・ブリッツ! ティアスプーン・ハルバード……スラ―――ッシュ!!」  ――ズババババン!! 「「「フ―――――ッ!?」」」  斬撃で、フード兵たちが粉みじんになり原材料の小麦粉生地へ戻っていく。  俺はそのまま飛び上がり、ドームめがけてハルバードを突き立てた。 「こんなドームぶっ壊してやる! もういっちょ、スラ―――ッシュ!!」  ――がきぃぃぃぃぃぃぃん!!  きか、ない。  重装甲の怪人も一撃でぶっ飛ばす、このティアスプーンが通用しない。 「な……なんだこのクッキー、尋常な硬さじゃないぞ!?」 「オーッホッホッホ! 当たり前ですわ!」  着地して歯噛みする俺の背後から、えらそうな高笑いが響き渡る。  この甲高い笑い声は、ついさっきも聞いたぞ。 「そのスイートドームは、【塩】の大幹部様から頂いた超々硬質岩塩入り塩バタークッキー製! 戦車砲すら跳ね返しましてよ!!」 「ッ!! さっきのアイス屋……いや、お前も怪人なのか!?」  振り返った俺の前には、麦わら帽を目深にかぶったアイス屋が立っていた。  さっきソフトクリームを配っていた奴だ。そうだ、あれを食べてから色々とおかしくなった。 「下賤の者に答える必要などありませんわ! ……が、あえて言いますならば」  アイス屋が着込む、プール従業員の制服がどんどん白く変色していく。  あれは、霜だろうか。急激な冷気で、服が凍りついていってるんだ。  「私はアイスクリーム怪人にしてフード・ワールド有数の名家、フローズンデュアート家の次期跡取り! 『氷菓令嬢』の異名を持つ【甘】怪人の筆頭! 」  凍りきった服は、真っ白くサラサラと崩れて中から露出度の高い、ビスチェのようなコスチュームが露になっていく。  冷気を放った手が、目深にかぶっていた麦わら帽を投げ捨てる。  ――バサァッ! 「いずれは大幹部の地位をも手にする事が約束された淑女の中の淑女! そう! 私こそ……!」  すると、ボリュームたっぷりのドリルヘアーが二つ、風になびいて現れた。  そして、いかにも高飛車なお嬢様という雰囲気の女が、けたたましく高笑いした。 「アンジェラート・ソフティア・ジェラード・シャールベット・フローズンデュアートなのですわ!! オーホッホッホッホ!!」  やっぱりこいつも、怪人なのか。……っていうか。 「長いんだよ名前も口上も何もかも!! あと滅茶苦茶答えまくってるじゃないか!?」 「こまけー事はいーんですわ!! あ、でも私の名前はちゃーんと覚えてくださいまし? 全国民の義務ですわ! オーッホッホッホ!」  そんな義務はない。あるわけがない。この怪人、ふざけてるのか本気なのか。  アイス怪人と言うだけあって、あの髪もついでに衣装も、アイスやソフトクリームで出来ているらしい。この暑さでちょっと溶けている。  だからこいつ自分でアイス屋のフリなんかしてたのか。お嬢様っぽいクセに変に行動的な……アイス屋? 「待てよ……アイスクリーム怪人で、アイス屋? そういえば、詩織ちゃんがチケットを当てたアイス屋も……!」   露店姿の、カートを引いて麦わら帽を被った女性と言っていた。  さっきまでのこいつのスタイルと、まんま当てはまる。  まさか、それも、こいつが。 「お、お前!? まさか街でここの無料チケット入りのアイスを売って……!?」 「あら、私の店をごひいきにして下さったのかしら? 感謝申し上げますわ、飛んで火にいる夏のヒーローさん!」  やっぱり。  全部、罠だったのか。  詩織ちゃんに近づいたのも、このプールに誘い込んだのも。  まさか、俺の正体やビストロみつばとの関係がバレて、こんな罠を――……。 「うふふ……ヒーロー誘き出し作戦大成功ですわ! このプールを我が家の財力で買い取って、町中にタダ券ばら撒いた甲斐がありましたわね! この手柄でまた私の地位も……オーッホッホッホ!!」  いや違った。危うくシリアスな気分になりかけていた俺はずっこけた。  こいつ、金にものを言わせて、無駄にまわりくどく大掛かりな作戦をやっただけだ。 「そ……そんな作戦でよく俺を誘き出せると思ったなぁ!? 来なかったらどうするつもりだったんだ!!」 「引っかかってる奴に言われたくないですわ!! オーホッホッホッホ! 笑いが止まりませんわ~~!」  図星。何も反論できない。  だけど言い負かされる訳にもいかず、俺はこのやたら長い名前の怪人を指さした。 「と、とにかくアンなんとか!! 俺を誘い出すのが目的なら人質はいらないだろう! ドームの中の……」 「んなっ!? だーれがアンなんとかですの誰が! 私はアンジェラート・ソフティア・ジェラード……」  お嬢様怪人がまた長ったらしい名前を言おうとした、その時。 「ロリぽっぷ・はんま――――っ!!」  ――ひゅおっ…… ずずぅぅぅぅん!!  天空からの一撃が、不毛な言い争いを中断させた。 「ちょっとぉ!? まだ私の名前を言い終わってませんことよ!?」 「ふ~~んだ、いつまでもダラダラ喋ってる方が悪いんでしょっ!」  さっき見かけた少女怪人が、俺とお嬢様怪人の間に割り込んできたんだ。  穿たれた床面はタイルが吹き飛び大穴が空いている。なんて威力だ。 「あ、危なかったぁ……。き、君はさっきの……!?」  巨大なキャンディ製のハンマーを構えた女の子は、サディスティックな眼差しで俺を見つめてくる。 「アタシは駄菓子怪人のドクロリポップ! ポップちゃんって呼んでい~よ? ざこヒーローのおにーちゃん♡」 「ざ……ざこひーろー!?」  完全に大人を舐めきった態度で、にやにや笑う。  そしてまた、巨大なハート型のキャンディハンマーを振り上げた。 「じゃーさっそくだけどぉ……ポップのこと好き好き♡ になってざこらしく負けちゃってぇ? ロリポップ……ハンマ――!!」  ――ずどがぁん!!  またもや当たるギリギリで俺は回避する。  床面が派手に陥没し、コンクリやタイルが散乱する。 「うぉぉ!? や、やめろよせ! 危な……」  こんな小さな女の子相手にマトモに戦えるか。  とにかくドクロリポップを止めようと声を荒げた俺へ。 「アイシング・エッジ……」  ――ずばばばばばんっ!!  今度は後ろから、無数の斬撃がつむじ風のように押し寄せた。 「……っ!? アクセルフォーク……ラ――シュッ!」  ――キキキキキキキィン!  無数の金属音が打ち鳴らされる。  咄嗟に具現化させたフォークで、俺はなんとか奇襲をいなしきった。 「へぇ……今の斬撃をいなすなんて、思ったよりやるじゃないか。ヒーロー」  白刃がきらめく中から現れたのは、さっきドームのバルコニーにいた全身クッキー甲冑の怪人だった。  唯一甲冑を外しているのは頭だけ。白銀の髪をたなびかせ、涼やかな凛々しい目で俺を見つめる。 「初めまして。私はクッキー怪人のビスカ・ハードコートだ。ひとつよろしく頼むよ……」  うっそりと微笑んでお辞儀をする姿はスマートで、瀟洒とすら言ってよかった。  中性的な顔立ちだが、ぴんと張り詰めた美しい声はこの麗人が女性である事を知らしめていた。 「なんでポップの邪魔すんのよ二人とも~~!ざこざこヒーローをやっつけるのはポップちゃんなんだから~~!」 「お子様は黙ってらっしゃいまし! 私がヒーローを倒してフローズンデュアート家の威光を知らしめるんですわ!! オーホッホッホ♡」 「はいはい、ポップも自称お嬢様も少し静かに。彼は私の獲物だよ? なぁ、ヒーローくん……♡」  三人並んだ怪人たちが、俺の目の前で俺を巡って言い争いを始めている。  だが俺は、この状況を信じたくなくてポカンと口を開けていた。 (う、うそだろ……怪人が、三人も。し、しかも全員)  こんなの、どうすればいいんだ。  いったいどうやって、戦えばいいんだ。  たった一人で相手する敵が全員。 (女の子だなんて―――ッ!!)  しかもみんな、かわいいし、きれいだし。    どうしようもない絶望感が、俺を襲った。  ※ (vsメスガキ駄菓子怪人 ドクロリポップ戦へつづく)

●次回小説 部分パート先行公開 銀星戦士シルバー・ブリッツ 水着回(前編)

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